デス・オーバチュア
第196話「剣王全開」




二条の紫黒の光輝が大地に激突した。
しかし、ゼノンの姿は光輝が激突する前にすでに地上から消えている。
「笑倣皇虎!」
漆黒の虎が、背後からアンブレラに喰らいかかった。
「ブラストッ!」
アンブレラは振り返り様に、右手の日傘からブラストを撃ちだして、紫黒の虎と相殺させる。
「シールド!」
次いで、横に突きだした左手の日傘にエナジーシールドを展開して、斬りかかってきたゼノンの剣を受け止めた。
「ディーペスト・クロー!」
日傘の向こう側に居るはずのアンブレラが、ゼノンの背後に出現すると紫黒に光り輝く右手を突き出す。
ディーペスト・クローはゼノンの体を擦り抜けた。
アンブレラの眼前に居たゼノンは残像。
本物のゼノンは、背後からアンブレラを一刀両断にしようと剣を振り下ろしていた。
「あああっ!」
アンブレラは背中の紫黒の光翼でゼノンを薙ぎ払う。
「くっ……」
ゼノンは数メートル程飛ばされて、地に踏み止まるようにして空中で停止した。
「エナジー使い放題だな……」
「魔界に大半のエナジーを置いてきている貴方とは、エナジーの総量が違うもの。だから、こんなこともできる!」
アンブレラは、日傘を持った両手を左右に広げると、両方の日傘の先端から光輝を撃ち出しながら回転を始める。
独楽のように大回転するアンブレラから紫黒の光輝は常に放たれ続け、地上を、空をデタラメに撃ち抜きながら、ゼノンにも何度も襲いかかった。
「くっ、エナジーの無駄づかいを……嫌みのように……」
ゼノンは、光輝をかわし続けながら、不快げに呟く。
ブラストは一発一発が、彼女の笑倣皇虎と同等以上の威力を持っていた。
大半のエナジーを魔界に置いてきているゼノンは、アンブレラのような『力』の無駄撃ちはできない。
エナジーの質こそ同等だが、今のゼノンとアンブレラでは比べるのも馬鹿らしい程のエナジー量の差があるのだ。
「貴方に地上へ強制追放された後、長い長い時間をかけて……やっと全盛期に等しい量までエナジーを回復させたのよ……結界を擦り抜けられる程度の下等魔族のエナジー量からね……」
ブラストを回転乱れ撃ちしながら、アンブレラは呟く。
「でも、あの時のことがヒントになって、今ではエナジーを一切失わずに結界を擦り抜ける方法も編み出した……その意味では感謝すべきかしら?」
アンブレラは苦笑を浮かべた。
魔界からの強制追放。
結界を抜ける(強制的に押し出される)際に、大半のエナジー……存在が削られてしまった。
削られたエナジー(存在)は……世界へと還元されてしまい、二度と取り戻すことはできない。
そのため、長い長い年月をかけて、『回復』と『鍛え直す』しかなかった。
だが、強制追放をヒントに思いついたのが、自らを下等な魔族程度の存在(エナジーの塊)にまで切り分けて、結界を擦り抜ける移動方法である。
擦り抜けて目的地に辿り着いた後に、『合体』して元に戻れば、エナジーの損失無しに自由に地上と魔界を行き来できた。
無論、こんなことができるのは、精神生命体、エネルギー生命体のような側面が強い彼女ぐらいである。
意志を持つ闇の塊、闇という力(存在)の群体であり固体である彼女ならではの移動手段だった。
「…………」
紫黒の光輝の乱射を避けながら、ゼノンはアンブレラへと近づく。
「せい!」
「……っ!}
ゼノンの剣が一閃したかと思うと、二本の日傘が両断されていた。
「ん?」
其処には、真っ二つになった二本の日傘があるだけで、アンブレラの姿はすでに無い。
「……ギガ・グラビトロン!」
紫黒の光球が、ゼノンの上空を埋め尽くしていた。
メガ・グラビトロンがゼノンの十倍程の大きさなら、ギガ・グラビトロンは百倍の大きさをしている。
「かわしきれない……っ!」
ゼノンは、迫るギガ・グラビトロンに自ら剣を叩きつけた。



「速度で貴方に遅れをとるわけにはいかないのよ……」
ギガ・グラビトロンの大爆発の後、アンブレラが地上に降り立った。
彼女の視線の先には、黒い甲冑……ゼノンが立っている。
「流石に、その鎧ごしでもかなりダメージあったでしょう? ノーダメージとか言ったら泣くわよ?」
アンブレラは微笑を浮かべた。
ギガ・グラビトロンの直撃を受けていながら、見た目には損傷が無い鎧の丈夫さには、最早笑うしかない。
「ああ……心配するな……とても痛かった……」
兜を脱ぐと、ゼノンはそう言って苦笑する。
「痛かった……大陸を消し飛ばす程の威力ある一撃を……その一言で片づけられては堪らないわね……」
「大陸一つ……謙遜するな……生身だったらオレを消し飛ばすぐらいの威力はあったぞ」
「それは過大評価ね……貴方を跡形もなく消し飛ばすには、私の最大技であるテラ・グラビトロンじゃなきゃ無理でしょう、例え生身でもね……」
「それは今度は、オレの丈夫さを過大評価していないか?」
「そうかしら? 貴方のしぶとさは魔界一だと私は思うわ」
「…………」
「…………」
アンブレラとゼノンは暫し見つめ合った後、同時に笑った。
「フフフッ……本当にグラビトロン系は弾速が遅くて、当てるの苦労するわ……余程、隙をつかないとね……」
「その分、威力はある……危なく様子見で逝くところだった……」
ゼノンは、抱えていた兜を大地に捨てる。
「……捨てるの?」
「ああ、息苦しいし、視界の妨げになるからな……後、これも捨てる」
どこからともなく鞘を取り出すと、剣を収め、大地に投げ捨てた。
「……できれば、もう少しあの剣でなんとかしたかったのだがな……これ以上、エナジーをすり減らす前に、本気にならせてもらう……」
ゼノンが右手を天にかざすと、異常に巨大な漆黒の剣が出現し、その手に握られる。
「魔極黒絶剣……魔黒金で作られた魔界最強の剣、貴方の愛剣……」
「最早、回避は完全に捨てた……数千年ぶりに『全開』で行かせてもらう……!」
ゼノンの全身鎧から、黒い闘気……暗黒闘気が爆発的に溢れ出した。
「元から壊れるものなんて何もない剣死界に、魔極黒絶鎧による自身の防御……貴方が全力を振るうための最低条件……」
魔極黒絶鎧は最強ともいえる防御力を持ちながら、その真の目的は相手の攻撃を防ぐことではない。
真の目的は、ゼノンの内側から爆発的に溢れ出す暗黒闘気を抑えることと、ゼノンが全力で放った攻撃の反動や余波から、彼女自身を守ることだった。
「……行くぞ、影の魔王!」
ゼノンは漆黒の巨剣を両手で握りなおすと、軽々と振りかぶる。
「もう少しウォーミングアップしたかったのだけど……仕方ないっ! ディーペスト・フェザー!」
アンブレラが背中の紫黒の光翼を羽ばたかせると、無数の紫黒の羽が豪雨のように撃ち出された。
「諦めろ!」
ゼノンが剣を一振りすると、全ての羽が一瞬で消し飛ぶ。
「もうそんな小技で遊ぶ時間は終わりだ……お前も全力を見せろ、アンブラ!」
右手(片手)だけで剣を持つと、アンブレラに向けて突きつけた。



「……解ったわ。そんなに見たいなら見せてあげる……まだ完全に使いこなせない程の大技を……ああああああああああああっっ!」
アンブレラが、己の体を強く抱き締めると、彼女の背中から、冥く輝く紫黒の光輝の翼が爆発的な勢いで『生やしなおし』た。
冥く輝く光翼の大きさは優に普段の三倍以上ある。
「……ゲート!」
アンブレラは片膝を折ると同時に、紫黒の輝きを放つ右手を大地に叩きつけた。
次の瞬間、アンブレラを中心に、紫黒の光で描かれた巨大すぎる魔法陣が出現する。
「我は汝を召還する……来たれ、最凶の魔剣! 魔皇剣・四暗刻(スーアンコウ)!!!」
「なっ!?」
魔法陣がこの世でもっとも暗く禍々しい閃光を放った。
本来、魔眼皇ファージアスのための剣、魔眼皇の力の半身とも呼べる存在……魔皇剣・四暗刻が魔法陣の中から浮かび上がる。
魔皇剣・四暗刻は、刀身も鍔も柄も全てが黒い輝きを放っていた。
鍔の中心に埋め込まれた巨大な宝石は、黒曜石でも黒玉でもなく、至高の黒金剛石(ブラックダイヤモンド)。
刀身は良く見ると、いくつかの線……紋様が描かれているようだが、それもまた刀身と微妙に濃さの違う黒で描かれており、遠目では何も描かれていないようにしか見えない細工だった。
「四暗刻!? なぜ、お前がファージアスの魔剣を……」
「確かに、四暗刻は闇の魔皇から生まれし魔剣……けれど、今は私にこそ相応しい真なる闇の魔剣よ!」
アンブレラは右手で柄を掴むと、暗黒の剣を一気に魔法陣から引き抜き、そのまま片手で上段に振りかぶる。
「っ!」
ゼノンは、全身から溢れ出す暗黒闘気を、剣へと集束させた。
「魔皇……」
暗黒剣の黒金剛石がまるで紅玉に入れ代わったかのように、赤い輝きを放ちだす。
次いで、刀身に赤い模様が浮かび上がっていった。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
アンブレラが空高く跳躍しながら絶叫すると、暗黒剣の刀身から、この世でもっとも冥い暗黒の炎が噴き出し、激しく絡み付くように燃え狂う。
「暗黒炎(あんこくえん)!」
ギガ・グラビトロン並のサイズの暗黒の火球が、振り下ろされた四暗刻の剣先から解き放たれた。
「……獅王葬刃!」
ゼノンは暗黒闘気を身に纏い、自ら暗黒の火球へと飛び込む。
暗黒の火球が弾け飛び、暗黒の爆炎が空と大地の境を灼き尽くすかのように埋め尽くした。
ゼノンは、爆炎の中から飛び出すと、そのままアンブレラへと迫る。
「やっぱり、最下級の炎じゃ貴方の鎧には通用しないか?」
アンブレラは、ゼノンの暗黒闘気を纏っての突進を、四暗刻の背で受け止めた。
「……いや、充分熱いぞ……」
ゼノンとアンブレラは弾かれるように、互いに間合いを取る。
「熱いというより『暑い』程度でしょうっ!」
「まあなっ!」
二人は、同時に間合いを詰め、斬りかかった。
魔極黒絶剣と四暗刻が交錯した瞬間、凄まじい爆発が起こり、二人をそれぞれ逆方向に吹き飛ばす。
「……魔皇暗黒炎!」
アンブレラは空中で体勢を立て直すなり、再び暗黒の火球をゼノンに向けて撃ちだした。
魔極黒絶鎧を破壊や溶かすことはできないとはいえ、その衝撃と高熱は確実に鎧の下のゼノンにダメージを蓄積させるはずである。
まったくの無駄な攻撃ではないのだ。
「ちっ……はああああああああっ!」
魔極黒絶剣の刀身から暗黒闘気が爆流のように放出され、元から巨大な剣がさらに巨大な黒刃となり、迫ってくる暗黒の火球を両断する。
ゼノンは、両断された暗黒の火球の爆発など無視して、アンブレラを目指して空を駆けた。
そして、黒刃が届く間合いまで詰めるなり、迷わず黒刃を振り下ろす。
「いいの? そんなにエナジーを勢いよく使ってっ!」
四暗刻から、黒炎が爆発的な勢いで噴出し、巨大な黒炎の刃と化すと、ゼノンの巨大な黒刃と交錯した。
「はあああああああっ!」
「あああああああぁっ!」
暗黒闘気できた黒刃と、暗黒炎できた炎刃が、互いを凌駕せんと激しく押し合う。
「……くっ!」
「……つっ!」
黒刃と炎刃は同時に限界に達し、爆発的に消し飛んだ。
その衝撃で、ゼノンは空の彼方に、アンブレラは地表へと弾き飛ばされる。
地上に激突したアンブレラは巨大なクレーターを作るが、直ぐさま、そのクレーターの中から飛び出してきた。
「力が巨大過ぎて……相変わらず微妙なコントロールがきかない……」
大味、大雑把すぎるのだ、この暗黒炎の力は……。
その上、反動も激しく、四暗刻を握る彼女の右腕は、肘近くまで真っ黒に焼け焦げていた。
「……んっ!」
「天剣(てんけん)!」
アンブレラが後方に跳躍した瞬間、姿無きゼノンの声と共に、大地から巨大な剣の刃が彼女の眼前に飛び出す。
「そうそう当たるものでは……」
「絶刀勢(ぜっとうせい)!!」
「なあっ!?」
地を駈けるように、次々に巨大な剣刃が突き出されていき、ついにはアンブレラの真下からも剣が飛び出し、彼女を空高く打ち上げた。
空へと昇っていくアンブレラの瞳に、暗黒闘気を爆発的に全身から放出し練り上げているゼノンの姿が映る。
「獅王葬牙刃(ししおうそうがじん)!!」
巨大すぎる漆黒の獅子王(ライオン)が出現するなりアンブレラを一呑みにして、大地へと激突した。











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一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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